日本郵政は本日、6年前に買収しながら業績が悪化していたオーストラリアの物流最大手「トール・ホールディングス」の事業の一部を現地の投資ファンドにおよそ7億円で売却し、これにともなって昨年度の決算に670億円余りの損失を計上すると発表しました。
元々は、2015年に6,200億円を投じて買収した企業だと言うことですので、トールへの投資による損失はおよそ▲99.89%。6年間で評価額が885分の1になったことになります。
安定的な成長が魅力のオーストラリアへの投資でこの大損失って・・・ウエストパック銀行でも不可能なくらい衝撃的な大損ですよね。

とは言え、トール社の事業の一部を売却しただけなので、まだ価値は残っているわけですが、トールの件では、日本郵政はすでに、買収してすぐに4,000億円規模の減損を計上しています。今回の計上する損失と合わせて4,670億円の損失。どう転んでも▲75%の損失を出している事実には変わりありません。これは投資下手だと言わざるを得ませんね。
ちなみにトールを買収した際に、6,200億円の投資に対して、のれんの額が5,000億円を超えていました。
のれんとは、わかりやすく言うと、買収された企業の時価評価純資産と、実際の買収価額の差額のことを言います。つまり、日本郵政が買収した時点のトールの時価評価純資産額は1,200億円程度だったわけで、そこに5,000億円を超える『ブランド力』やら『期待度』を上乗せして買収したと言うことになります。
のれん自体はM&Aではよく発生するものですが、のれんの額に説明できるだけの妥当性がなければ、のれん計上は認められません。買収した1年後に計上した4,000億円規模の減損も、日本郵政とトールとのシナジー性が認められず、のれんを全額減損せざるを得なかったことが影響しています。
このレベルになってくると、トールの買収が完全に割高だったことが分かります。収益性を見る限り、確かに6,200億円の投資は過剰だったように感じました。
日本郵政はこのように世界中に投資下手であることをアピールしてしまいました。というか日本企業でM&Aが劇的な成功を見せるパターンの方が少ないように思います。確かに投資ですからリスクがあるのが当然で、リスクを負うことを否定しているのではありません。
しかし、買値は大事だと思います。どれだけ素晴らしい企業でも投資金額が高すぎる場合、損をする確率はかなり上昇してしまいます。
日本郵政は、お年寄りに売りつけた不要な保険や、割高な投資信託で儲けたお金をこうやってドブに捨ててしまっているわけですね。
一番の勝ち馬は6年前に6,200億円で買収された際のトールの株主でしょうか。まさか6,200億円で買収されるとは思ってもいなかったでしょうね。
我々にはこのような高額買収の案件に携わることはあまりありませんが、個人投資家と言っても、株をいくらで買うかは大切です。私も株を高い状態で買ってしまうこともよくありますが、成長性の高い企業へ投資しているので大丈夫だと考えています。
まあ、将来性がないと思っている企業に投資するバカはいないと思いますが・・・日本郵政のトール買収案件には、バリュエーションは考慮されていなかったようです。投資の初心者がなんとなくで買収したという感じがしますよね。
日本郵政の大損失は、我々も学ぶべきことがあるのではないかと思いました。