今年3月の発売以来、破竹の勢いで売り上げ本数を伸ばしているニンテンドースイッチ用ゲームソフト『あつまれ どうぶつの森』通称・『あつ森』が、金融教育の教材に向いていると話題になっている。

皆さんすでにご存知だろうが、あつまれ どうぶつの森とは、主人公が無人島を開発していき、自分だけのオリジナルの島を築き上げていくという、開拓者スピリットと、ほのぼのライフという対極にある要素を取り入れた名作ソフトです。
発売からわずか6週間で1341万本と、ニンテンドースイッチ用ゲームソフトとしては史上最高の滑り出しを記録したことからも、その名作ぶりがわかります。
ですが、この『あつ森』は前述の通り、非常に金融教育に意義のあるゲームとなっているそうです。
その理由の一つが、今年4月23日に突然発生した、『緊急利下げ』。ユーザーの不正行為への対策として、従来0.5%だった預金利息を0.05%に引き下げたというのですから驚きです。
たぬきバンクが金利を操作することで一部の住人行動をコントロールしたように、現実世界でも、日銀のような中央銀行が政策金利を操作して、金融面のバランスを保つように努めている。
筆者がこう語るように、現実世界でも、緊急利下げは人々の行動をコントロールするために取られる政策です。金利を引き下げることで、お金を市場に流通させ、投資を促進させるために用いられます。
『あつ森』の世界でもこれは効果てきめんだったようで、低金利となったユーザーたちは、銀行預金に見切りをつけ、次に手を出したのが、『カブ』と呼ばれるアイテムだと言います。
ゲームをある程度進めていくと毎週日曜の午前中に島を訪れるようになるキャラクターから購入することができる『カブ』は、見た目は野菜のカブそのもの。ですが、このアイテムの面白いところは、価格が本物の株式と同様、値動きがあるということです。
毎週月曜日から土曜日までの午前と午後、一週間で12回、カブ価の変動が発生し、買値よりも高く売ることで収益を発生させるという仕組みだ。ただ、残念なことに、このカブは長期投資には向いておらず、ちゃんと『野菜らしさ』も残しており、一週間経って次の日曜日を迎えた段階で全て腐ってしまうというデメリットがあります。
腐ってしまうと大量のカブがかなりの安値でしか売れなくなってしまうので、月曜から土曜の間になんとしても売ってしまわなければなりません。
ですがこのカブは、実はソフトごとに価格がバラバラになっており、自分がプレイしている島以外の島に移動すれば全く違う価格で取引されていることが多いのです。しかも他の島に行って売買することも可能なのです。
このシステムに目をつけたユーザーは、自分の島では日曜の朝のカブを買える状態に時間を設定しておき、SNSなどで自分の島で売っているカブ価よりもかなり高くで売ることができる島を探して、買えるだけのカブを買って、ネットワークでその島へ移動し、高値で売り捌くことで売却益を得ているのだそうです。
これは、現実社会でも利用される、裁量取引、アービトラージと呼ばれる行為です。買値と売値が初めから分かっているので、どれだけの利益が生み出せるのかも一目瞭然。しっかりと利益を生み出せると分かっていれば、躊躇うことなどないですからね。
しかもこれだけに留まらず、高値で売ることができる島の住人は、自分の島に他の島からカブを売りにくるユーザーを迎え入れる代わりに、手数料として利益の一部や、アイテムと言ったモノを請求するのだそうです。
手数料を払ってでも行きたいと思うのは、確実に儲けが出ることが分かっているから。そうして双方の納得の上でカブ取引に自身の島を利用することを許可するのだそうです。
こうすることで、受け入れ側の島のユーザーは、自身ではカブを買うリスクを負うことなく、手数料収入やアイテムを手に入れることができるので、ゲームの世界とはいえ、非常に高度な金融取引市場が形成されていることが伺えます。
また、このシステムを利用すれば、先物取引のような権利の売買もできるだろうということで、『あつ森』は、現在の金融市場を理解するために最適なゲームソフトなのだと言えるのではないでしょうか。
そしてまた、こう言った取引が活発に行われていることを知らない住人たちは、あくせくと虫を捕まえ、魚を釣って売ることでしかお金を稼ぐことができず、情報がお金持ちと貧乏人との格差を生み出すあたりも実にリアルになっているのです。
『あつまれ どうぶつの森』は単純な無人島ライフを楽しむゲームなどではありません。島を開発することが主人公の最大の目的なのですから、そこに生まれるのは実に資本主義的な考え方なのです。
お子さんに分かりやすく金融商品の仕組みを教えるためにも、今大人気のゲーム『あつまれ どうぶつの森』は最適な教材と言えるのではないでしょうか。