現代ビジネスに興味深い記事が公開されていました。今回の主人公は50歳の専業主婦、高井由美子さん(仮名)。多額の資産を相続した彼女を待っていたのは、地獄の日々でした。

親から相続した多額の資産を運用しているうちに、2008年のリーマンショックによる株価の暴落のあおりを受けて、証券会社のラップ口座で運用していた資産が半分になってしまったと言います。
「当時の私の運用は、とても投資などと言えるものではありませんでした。なんの知識もないためすべて証券会社の営業マンに言われるままで、含み損が出ても損切りしないし、儲けが出ても利益確定することもない。営業マンからの提案通り、ただただ金融商品を乗り換えていただけでした。相場ではなく営業マンだけを見て、この人は信用できそうだから、悪いようにはしない、と根拠もなく信じていたのです。」
なぜ知り合ったばかりの営業マンをそれほど信用できたのか?というところも疑問ではありますが、彼女のように投資に関しては証券会社の営業マンを言うことを一方的に信じると言う人は、特に彼女のような現在50代以上の人たちの中には少なくありません。
証券マンの言う通りにして、大きな『被害』を受けたという素人の方たちは、ほぼ例外なく、ビギナーズラックを享受しています。
始めのうちは自分が予想もできなかったような含み益を抱えて、「投資って簡単だ」とか「証券会社に任せておくだけでお金が増えていくなんて、スゴイ!」と言った勘違いをしてしまい、泥沼にハマっていくのです。
ご本人が反省しているように、全く何の知識もない状態で証券会社の営業マンに言われるままに取引をすることも多く、しばらく経って、株式市場が乱高下を始めると、含み損に慣れていない素人の彼らは、相場の乱高下に合わせてコロコロと商品を乗り換えていくのがお決まりの失敗パターンと言えるのです。
証券会社の証券マンは決して投資のプロではありません。あくまで彼らはただの営業マンであり、証券会社の利益のために働いているのです。
証券会社にとっての利益の源泉は、もちろん顧客からの手数料収入ですので、営業マンはその手数料収入を稼ぐために、投資家にコロコロと商品を切り替えさせる訳です。
さらに言えば、彼女には投資やお金に関する知識が乏しかったが故に、含み益が消えていく中で狼狽してしまったことが、余計に事態を悪化させてしまったのでしょう。2008年9月末には含み損が870万円を超え、ストレスで眠ることもできなくなってしまったと言います。そしてそれからわずか1か月後に、含み損が1,200万円を突破し、そこで営業マンに連絡したところ、異動したために音信不通となってしまったということです。
彼女はここで保有していた資産のほとんどを手放したものの、他の口座で保有していた金融商品はホールドし続け、リーマンショックから10年後にようやくトントンにまでこぎつけたと言うことでした。
こうした悲劇は日常的に起こりうることで、『投資は怖いものだ』という誤解を植え付けるために頻繁に用いられる逸話です。
ですが、基本的には彼らが損をする過程では、やっぱり自己責任なんだよなと思うことが数多くあります。
今回の事例のように証券マンに全てを任せたまま資産を拡大させようとしたのも虫が良すぎる話ですし、投資をする過程で、投資について勉強しなかったのもやはり危ないと言えるでしょう。
最近では、それほど熱心に投資の勉強をせずとも資産形成ができるような優良なインデックスファンドも増えましたが、高井さんが投資をしていた頃は、それほど選択肢がたくさんあった訳ではありません。そう考えると、時代が悪かったとも言えますが、そんな時代だからこそ、ほったらかし投資ではなく、自分で勉強して、他人の意見に流されないようにすべきだったのではないでしょうか。
逆に今の世の中では、ある程度勉強をしなくても資産形成に取り組むことができる、良い時代となりました。
市場平均という、素晴らしいパフォーマンスが期待できるインデックス投資にかかる費用は歴史的にも類を見ないほど、低コストになっています。
幸いにも、今の世の中でまだ20代・30代という方達は、投資にかける時間が有り余っています。誤解を生むかもしれない言い方ですが、S&P500などの指数に連動するインデックス投資に全力投資していれば、投資やお金に関する勉強をそこまで真剣にしなくてもある程度の資産を築き上げることは可能です。
もちろん、勉強した方が自分の身のためではあります。時代が変化しても、いまだにお金に関する知識が乏しいために起こる悲劇があるのです。

ただ、20年前よりは確実に、素人でもそれなりのパフォーマンスを叩き出すことができるようにはなっていますし、これからますますその傾向は強まっていくことでしょう。
つまり我々はここ最近になってやっと、誰でもまともに資産形成をすることができる環境を手に入れたということです。だからこそ、こういった『投資は怖い』という話を真に受けて投資を避けるのではなく、今はどうなんだろう?と自分で調べて投資の世界に興味を持って実行してほしいなと感じます。
投資が怖いというのは、自分でよく分からないものに手を出すから起こり得る、投資の一面に過ぎません。ある程度の知識を蓄えておけば投資の怖さに立ち向かうことは十分に可能です。
すでに個人投資家を取り巻く環境は、リーマンショック時とは違い、相当改善されていると言って過言ではないでしょう。投資を知ったうえで投資に手を出すことは、何も怖いものではないと言えるのではないでしょうか。