当ブログでも何度か取り上げさせていただいたが、ダイヤモンドオンラインで何度かに分けて連載されている『10万円から始める! 小型株集中投資で1億円』という記事が実に『興味深い』。


この筆者曰く、
基本的な戦略は、1年以内に株価3倍以上になる「小型株」を見つけて、1銘柄に集中投資すること。
ふつうの会社員でも、抑え気味のシミュレーションでも、10年あれば1億円貯まる。
と主張する。
彼の主張に則れば、株価が1年で3倍以上ということは、最低でも年間リターンは300%ということ。毎年3倍になったところで持ち株を全て売り払い、次の『1年後に3倍になる』株に全額投資をする。ということを10年間続けていれば、10年前の10万円は、少なくとも59億490万円になる計算だ。
ふつうの会社員だからと言って、『少しシミュレーションを抑え気味すぎる』ような気がするが、これも筆者の優しさだろうか。
10年間で10万円を1億円にするには、1年以内に株価が『たったの』2倍以上になる小型株を見つけて集中投資をすることを10年間続ければいいだけなのです。年間リターンが『わずか』200%であれば、10年前の10万円は現在1億240万円になっている計算となります。
でもおかしいなぁ…1年以内に3倍ではなく、たったの2倍で良いのであれば、小型株だけでなく、みんなが知ってる米国一の時価総額を誇るアップル(AAPL)も、2019年1月4日に148.26ドルで買って、1年後の2020年の1月3日に297.43ドルで売れば、2倍になったんだよなぁ…


あ!ごめんなさい!筆者が主張しているのはあくまで1年で3倍になる小型株だけでしたね。1年でたったの2倍になる程度のみんなが知ってる大型株なんて興味ないですよね。また論点がズレちゃうところでした。失礼いたしました。
おそらくふつうのサラリーマンでも使えるどこかの証券会社のスクリーニング機能で、『来年の今頃に株価が3倍になっている』銘柄で検索をかければ、いくつか候補銘柄が出てくるんでしょうね。私はこの方の著書を読んでいませんので詳細を知るよしもありませんが。
…さて、ここからは、中学生の頃に受験勉強もせず『ピーター・リンチの株で勝つ』を読み、高校生の頃に『株式投資の未来』と出会い、ウォーレン・バフェット氏関連の書籍もいくつか読み、大学生のときに『余計な』知識を持って投資を始め、10年で3,000万円程度とそれなりの資産しか築けなかった投資家のしがない意見です。
筆者の主張では、年間平均リターンが5%程度なら、始めに投資した100万円は10年間で163万円にしかならず、10年で63万円しか稼げないならバイトでもした方がマシだとのこと。
ですが、私はそもそも、なぜ初年度にしか入金しない前提なんだろう?と思います。今この瞬間に手元に100万円しかなくても、毎年一定金額を積立投資すればいいのにと考えてしまいます。
バイトして63万円以上は稼げることがわかっているのであれば、本業と合わせて副業をするなりして、10年間、毎年100万円(毎月約83,333円)ずつ入金し続ければ、平均リターンがわずか5%でも、1,300万円弱と、それなりの資産になります。

『そりゃ、10年間で合計1,000万円の元本を入金してるから大きくなるのは当然だろ!』
とお叱りを受けるかもしれませんが、私からすれば、なんで老後資金を用意するのに、入金のチャンスが一度だけだという前提なのかが理解できません。まだ何十年も先の、老後2,000万円不足問題に備えて今から投資をするのであれば、何十年もある現役期間に余剰資金を生み出して、積立投資すればいいじゃないですか。
少なくとも私はこの方法で、100万円から始めた投資で10年目にして3,000万円を超える資産を築いております。1億円には程遠い結果ですので、彼の著書のファンには響かないだろうと思いますけどね。
あと、彼が勘違いしているのではないかと感じたのが、この一節。
市場平均をベンチマーク(目標)とする低リスク・低リターンのETFで期待される利まわりは、よくてもせいぜい年利5%前後です。バブル絶頂期の定期預金の金利が7%程度ですから、それを下回る水準です。
米国市場なら平均リターンは6%前後なんだけどなぁ・・・とか細かいことは今は置いておいて、年利5%、6%というのは、あくまでインフレ調整後のリターンであるということ。つまり株式投資のリターンが6%というのは、インフレが年間平均2%進む環境下においては、株式投資の平均リターンは8%ほどが期待できるということ。
日本では過去30年間、デフレが当然という考え方なので、勘違いしがちです。株はインフレに強いと言われていますが、逆にデフレには弱いです。年間平均リターンがインフレ調整後6%の株式投資は、デフレが年間で2%進む環境下では、年間4%しか成長しないということになります。
日本株と日本企業が弱いのは、極端な話、日本が30年間デフレ続きだからです。ブラック企業にお勤めのアナタは、小学生の頃に習った『デフレスパイラル』に今、まさに巻き込まれているのです。
さらに言えば、バブル絶頂期の定期預金が7%の金利をつけていたのもちゃんと理由があります。
7%のリターンをノーリスクで得られた時代があったなんて羨ましいとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、バブル期に入る前の1980年代前半の頃は、まだ日本経済はインフレが進んでいた時代で、インフレ率は2%を優に超えるようなまともな資本主義社会でした。
さらに世界的に見れば、1970年代までは冷戦が続いており、いつまた世界大戦が起きてもおかしくないというような時代でした。こういった時代背景を鑑みれば、年単位で資金が拘束される定期預金の金利が7%くらいなければ、顧客も定期預金などには目もくれなかったことでしょう。
つまり、定期預金の金利7%はバブル絶頂期には十分にリスク商品であり、それほどリターンを得ることができない商品だったということが伺えます。当時は日本株や土地を転がしていたほうが十分に儲けられた時代ですからね。
そして、1991年に日本のバブルと、冷戦の象徴たるソビエト連邦がダブルで崩壊したことで、日本という国のカントリーリスクとインフレリスクが一気に減少し、日本の金利も下落し今に至るということです。
これらの不安定な情勢であっても、株式はインフレ調整後で5%、6%のリターンを得ることができるんだと言う点が株式に長期投資をする大きなメリットと言えるでしょう。
だからこそ、1年間で3倍になる小型株へ投機し続けるよりも、年間平均リターン(インフレ調整後)が5%程度とは言え、株式投資に長期積立投資をするほうがミドルリスク・ミドルリターンで資産を形成することができると言えるでしょう。
もしも、ふつうのサラリーマンの誰もが、年間平均リターン300%の株を買える世の中ではきっと、年間平均インフレ率は295%と言うハイパーインフレ社会になっているんだろうなと私は思います。