アマゾン・ドット・コム(AMZN)とマイクロソフト(MSFT)は、お互いに小売業とソフトウェア販売業だったにも関わらず、今の世の中ではクラウドサービス事業でしのぎを削るライバル会社となりました。
ですが、マイクロソフトが昨年ペンタゴンとの大型契約を勝ち取って以来、アマゾンはご機嫌ナナメです。

昨年11月には、アマゾンが米国を相手に提訴するという行動を起こしたこともニュースになりました。

そして今度は、同社のクラウド部門、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のアンディー・ジャシー最高経営責任者(CEO)は、先月ラスベガスで開かれた同社のクラウド部門の年次会議で、マイクロソフトに矛先を向けたという。

ジャシー氏はマイクロソフトについて、「顧客にとって重要な事柄を優先課題としていない」と批判した。同氏によると、ライバル企業は大抵、単なる模倣者にすぎないという。「彼らはわれわれが提供するものを見て、急いでそれを準備し、自分たちも提供していると言うだけだ」
この批判は、的を得ているのかもしれないが、個人的な感想としては、『だから何だ』と言わざるを得ないです。
そもそも彼は、マイクロソフトという企業の成り立ちをご存知ではないのだろうか?マイクロソフトが世界的に認知度が高まったきっかけとなり、今や多くのPCの標準装備となっているOS(オペレーションシステム)の『Windows』は、言ってしまえばアップル(AAPL)の『マッキントッシュ』に載せるGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)をベースに開発されたOSなのです。
端的に言えば『Windows』はマッキントッシュの模倣品であり、急いで準備して提供したものに過ぎないのです。
マッキントッシュの開発段階にあったスティーブ・ジョブズ氏が、ビル=ゲイツ氏に対して、「何を開発しているんだ?同じものを作っているのではないのか?裏切り者め!」と罵るのに対して、ビル=ゲイツ氏は伝説的な返答をした逸話はあまりに有名です。
「ゼロックスの家に押し入ってテレビを盗んだのが僕より先だったからといって、僕らが後から行ってステレオを盗んだらいけないってことにはならないだろう」
ビル=ゲイツ氏の言う通り、初代マッキントッシュのGUIもゼロックスの開発チームが開発したものを元に作られており、ジョブズ氏は批判できる立場ではなかったのです。つまり、マッキントッシュもWindowsも突き詰めれば模倣品に過ぎないのです。
ではなぜ、単なる模倣品であるWindowsが世界中に受け入れられることとなったのか?もちろん、マッキントッシュの発表より前に Windowsを世間に発表し、アップルを出し抜いたというのもありますが、 Windowsのベンダーの対応は素晴らしく、不具合やエラーが発生するとすぐに情報共有がされることで不具合から回復するスピードが早いですよね。そしてスケールメリットと、積み重ねたノウハウが膨大であるというところが、今なおビジネスの世界で大多数の支持を得ている点ではないかと思います。
著名な画家である、パブロ・ピカソも以下のような名言を遺している。
優秀な芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む。
模倣することは、いわゆる”パクリ”です。”盗む”もパクリと同じ意味ですが、この言葉で使われている”盗む”とは、模倣していることをバレないくらい自分自身に体得するという意味でしょう。
言い換えれば、パクリではなく、盗んで完全に自分のもの(オリジナリティ)に昇華するのが偉大なる芸術家だとピカソは発言しているのです。
マイクロソフトのWindowsは単なる模倣品ではなく、オリジナルのシステムに昇華させたからこそ、今のマイクロソフトがあるのです。アップルだって同様です。
ゼロックスから盗んだものを昇華させたアップルのMac製品やマイクロソフトのWindowsがあるから、今やこの2社はどちらも時価総額1兆ドルを超える企業に成長することができたのです。
マイクロソフトには模倣品を単なる模倣品ではなく、オリジナルに昇華させる実力とノウハウがあるのを我々は知っています。マイクロソフトの『Azure』が、アマゾン・ドット・コムの『AWS』を超える日が近い将来、来るのではないか。最近のアマゾンの小物感を見ていると、そう期待してしまうのが株主としての親心なのかもしれません。まあ、盲目は危険だとも言えるんですけどね。