今の時代、クオリティの低いメディアばかりで辟易しますが、ウォールストリートジャーナル(WSJ)だけは、高いクオリティをキープしていてくれています。そんなWSJに先日、興味深い記事が掲載されていました。

同紙は、米S&P500種指数は過去30年で800%上昇し、金融危機といくつもの弱気相場を乗り越えてきたのに対して、日経平均株価が1989年12月29日に3万8,915円87銭で過去最高値を付けた後、下落に転じ、その水準はいまだ回復しておらず、30年過ぎた今、日本株はこの最高値を40%ほど下回ったままだ。という点を指摘している。
そして、米国も着実に高齢化が進んでおり、米国にも日本と同様に『失われた数十年』が訪れるのではないかという視点から書かれています。もちろん、経済の『日本化』は米国のみならず、高齢化が進む先進諸国で起こりうる深刻な問題です。
経済の日本化がどのような問題を引き起こすかは、当事者である我々が一番よく分かっていますので、省略するとして、当ブログでは、米国が日本と同様に『失われた数十年』を経験することになるのかどうかを考察してみたいと思います。
結論から言えば、私個人としての見解では、米国経済は今すぐに『失われた数十年』を経験することはないだろうが、その予兆はある。と言うことです。
日本経済が弱まった一番の原因は、やはり『少子高齢化』が挙げられるでしょう。日本は他の国が経験したことのないスピードで高齢者の割合が増加しており、重大な問題を引き起こしています。
その結果、社会保障制度が破綻寸前となり、現役世代の負担が増加しているだけでなく、高齢者が占める割合が増えれば増えるほど、政治家も高齢者優遇の政策しか取れなくなり、将来性のある現役世代に予算を割り振ることができず、結果的にさらに子供が生まれづらい世の中になっているのです。
ですが、米国では今まで高齢化が日本ほど極端に進むことはありませんでした。それはなぜか?一つの要因として、若くて能力のある優秀な人材が世界中から資本主義の中心である米国に移住してくることで、新陳代謝が活発だったためです。
ですが、ドナルド・トランプ氏が大統領になって以降、移民政策が強化されたため、米国へ移り住むことが容易でなくなっただけでなく、すでに米国在住の外国人もビザの更新が難しくなってきているのである。
例えば今朝、NYで人気となっている高級寿司屋が続々と閉店しているという記事を見つけました。

その背景には、米国での就労ビザの更新に「学士号以上の学歴、もしくはそれに相当する実務経験、職務内容があり、高収入があること」いう厳しい条件がついたことが挙げられています。寿司職人の世界は、中卒で職人の世界に飛び込む方も多いため、この条件を満たすのは相当厳しいと言えるでしょう。
こうして就労ビザを持つ移民を排除すれば、あるシンクタンクの試算によれば、72万人が労働市場を離れ、雇用主に63億ドルの負担がかかり、米国のGDPは10年間で4,330億ドル減少すると試算しており、長期にわたり、甚大な影響が出ると予測しているという。
生粋の米国人の権利は守られるかもしれませんが、移民制限によって米国の『高齢化』が進むのは間違い無いでしょう。そして高齢化が進めば、活発な消費は期待できず、成長率が鈍化するのは当たり前です。やはり生産と消費を支えているのは若年層であり、高齢化社会だと成長幅にも限界はあります。
じゃあ、米国経済は今後『失われた数十年』に突入するのでしょうか?私は一概にそうとも言い切れないと考えています。
まず、米国と日本では色々と置かれている状況が違います。例えば労働市場ひとつにしても、米国の労働者が競争力のある大企業に勤める割合は過半数を超えているのに対して、日本では大企業に勤める労働者は約13%と言われています。つまり、日本だと競争力のない中小企業に勤めているために十分な賃金を受け取ることができない労働者が8割以上いるのです。

それに対して、米国では過半数の労働者が大企業勤めですから、安定して高収入を得ることができます。米国のとある州では、年収1,400万円でも低収入という話が昨年末に話題となりました。
労働者が高収入を得られるということは、適切なインフレを起こすことが可能ですので、米国経済は成長率が鈍化することはあっても、成長が止まることはないんじゃないだろうかというのが私の思うところです。
しかもそもそも、米国企業と日本企業では、競争力があると言っても月とすっぽんであり、米国の大企業と日本の東証一部上場企業を見比べれば、どれだけの大差があるかというのがわかるかと思います。
それだけでなく、米国株式市場は企業たちも適切な新陳代謝を起こしており、時価総額上位のアップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、アマゾン・ドット・コム(AMZN)などは、30年前にはまだ存在していなかったか、吹けば飛ぶような中小企業でした。
ですが、そこからアップルは時価総額1兆ドルを超えるような超巨大企業へと成長を遂げたのです。ですが、日本企業はと言えば、その30年間で凋落し、いまだに時価総額のトップはトヨタ自動車(7203)というオールドエコノミーな製造業です。これだけでも日本より米国の方が新陳代謝が良いことが伺えますよね。
そしてこれらの代謝の良さが米国でイノベーションが生まれ続ける理由であり、これによってますます米国企業は切磋琢磨を続けて成長の底上げが期待できることでしょう。
また、米国の成長率よりも、中国やインドの方がIT分野での成長は著しいのではないか?という意見が見受けられます。
確かにそれは否定できませんが、だからといって中国やインドに投資するのは、投資家として不安しかありません。中国やインドといった国では、まだ個人事業主の資産運用に対するコーポレートガバナンスがズブズブだと思いますからね。不安で資金を預けることはできません。
だから、私はこれからも米国という国に投資を続けたいと考えています。日本の成長生には全く期待できないし、中国は共産党が政権を握り続ける限り信頼はできません。インドも素晴らしい国ですが、ビジネスの話になると途端に騙し騙されという世界になるのがインドという国です。まだ全幅の信頼は置けません。
だとすれば、これから先も低成長とは言え成長を続けるだろう資本主義の王者である米国に投資するという姿勢は、少なくとも我々が存命の間は最適解に近い投資手法なのではないでしょうか。
投資の神様であるウォーレン・バフェット氏が『百年後にはNYダウは100万ドルに達しているだろう』と予測しています。
しかし、百年後に100万ドルを達成するために必要な成長率は、毎年たったの3.87%にすぎず、2010年代の好調さを見ればかなり悲観的な予測であると感じます。
でも、もしかしたら成長率の鈍化が起きれば、本当に百年後のNYダウは100万ドル程度にしか成長しないのかもしれませんね。もちろん、バフェット氏の予測だとしても、当たるかどうかはわかりませんし、百年後には今の世の中に生きている大半の人間は死んでいるだろうから、百年後のNYダウを見ることは叶わないでしょう。ですが、米国の成長がこれからの百年も続くだろうというのは、それほど的外れとは言えず、妥当な予測だと考えられるのではないでしょうか。