10月の末頃、業務の一環としてセミナーに参加してまいりました。私が尊敬している直属の上司(執行役員)から、知り合いが講師として登壇されるので、挨拶を兼ねて参加してみないかとお誘いいただいたためです。
そのセミナーは『リスクコントロール』や『内部統制』と言った、経理よりは内部監査室向けのセミナーだったのですが、お話を聞いて大変勉強になりました。
まず初めに、講師の先生がお話しされたのが、「皆さん『リスク』という概念をちゃんと理解されているでしょうか?」と言う内容でした。リスクとは、損失を被る可能性だと勘違いされている方が多いのですが、本来のリスクの意味は『不確実性』と言うことです。将来、損をするかもしれないし、逆に得をするかもしれない。その不確実性のことをリスクと呼びます。
私は「貯金はノーリスク」という意見には賛成です。その意見は確かに正しいと思います。ですが、それは貯金をしてたら安全だという意味ではなく、貯金だけをしていたら将来確実に損をする=不確実性がない=ノーリスクだと考えているからです。
その講師の先生も、貯金の話はされませんでしたが、リスクの概念とは不確実性なのだということをおっしゃっていました。そして、その将来の不確実性に対して、どれだけ仮定を立てて備えることができるか。というのが内部統制上のリスクコントロールなのだというお話でした。
将来のリスクに対して仮定を立てるというのは難しいかもしれませんが、リスクが発生しうる場面というのは大体決まっています。内部統制上の話で言うと、経営階層・管理者階層・担当者階層と言う3つの階層に分かれて、それぞれの階層で発生しうるリスクを統制環境を整えることによって未然に防ぐと言うことでした。
例として挙げるならば、先日、日本マクドナルド(2702)で7億円もの横領が発覚しましたが、

これは担当者階層と管理者階層の間で適切なモニタリングと統制環境が整備されていなかったことによって生じた事件と言えるでしょう。
反対に、同じマクドナルドでも米国マクドナルド(MCD)では、取締役会によって現役のCEOが不倫問題で解任されました。

これはある種、経営階層の統制環境がちゃんと機能している状態と言えるでしょうね。
内部統制上、リスクコントロールをするためには統制環境を整える必要があるのですが、すべてが上手くいっている時こそ、定期的に統制環境を見直す必要があると言うお話をされていて、これは本当に投資家としても意識しておかなければならないなと感じました。
先生曰く、すべてが上手くいっていて問題が起きていない時でも、統制環境の前提条件が変化していないか?それは今の情勢に合っているのか?それを定期的に見直して更新していくことで、リスクコントロールは盤石なものになるとのことでした。
そのため投資家としても、前提条件の見直しは必要だと思います。シーゲル教授の名著、『株式投資の未来』によると、1802年〜2003年までの202年間、1ドルを持ち続けた場合、その購買力は0.07ドル。わずか7セントまで下がっているとのことでした。貨幣価値の下落はインフレによるものなので、この202年間の平均インフレ率は1.3%だったと言うことになります。
そして米国株式のインフレ調整後のリターンが7%程度であると言うことは、インフレ調整前では8.3%程度のリターンが見込めていたと言うことです。
一方で、2004年〜2018年までの平均インフレ率はおよそ2.1%となり、インフレ調整後のリターンが7%と言う仮説がこれからも続くのであれば、インフレ調整前で9.1%程度のリターンが見込めると言うことです。
『株のリターン=1/PER』という数式で表すことができますので、期待リターンが9.1%ということは、適正なPERはおよそ11倍(1/PER11倍=9.1%)となります。米国株全体のPERは20倍程度だと言われていますので、じゃあやっぱり割高なんじゃないの?とも言えますが、一方で今は米国の10年債利回りが歴史的なほど下がっているため、高PERが許容されているとも言えます。

さらに、ジェレミー・シーゲル教授自体が、「インデックスコストの低下により、これからのインフレ調整後リターンは5.5%くらいが適正ではないか。」とも話している。
「そもそもインフレ率の前提条件が過去200年だと長すぎるし、現実的じゃない!直近50年くらいでの比較だと前提となるインフレ率も変わってくるだろう!」という意見もあるでしょう。
もちろん前提条件はインフレ率だけではなく、ノーリスク資産の利回りや、為替についても比較する期間によって全く変わってきます。1802年なんて、まだ金本位制が始まる前の時代ですからね。為替の比較なんてできません。
ただ、人は上手くいき過ぎている時期ほどどうしても、リスクコントロールについて忘れがちな生き物です。前提条件がどうあれ、現在S&P500指数の年初来リターンは22.34%となっており、明らかに絶好調すぎます。まだ2ヶ月残っているとはいえ、このまま行けば、2019年は市場参加者が予想していたよりは、かなり好調だった1年となることでしょう。
そんな時こそ自分が、どの程度のリターンを求めて株式市場に参加したのか。という初心を忘れず、上手くいき過ぎている時こそ、現在の情勢を鑑みて前提条件を定期的に見直し、リスクコントロールをする必要があるのではないかと思った次第です。